新しい演奏会の形
リモートで音楽を届けよう
1.概要
私たちは、コロナ禍で減ってしまった音楽の演奏や音楽鑑賞の機会を増やしたい、また音楽を身近に感じる機会が少ない方々に音楽の楽しさを知ってほしいという思いで活動を開始した。この企画を進めた私たち浜松ゼミ所属の女子3人組は、バンド・吹奏楽・弦楽による3ジャンルでのリモート演奏会を企画した。今回は20人以上の演奏者に協力を依頼し、高齢者施設に手作りの音楽演奏DVDを届け、演奏参加者には演奏機会を提供した。
2.経緯
まず活動を始めるにあたって私たちに縁のある地域から活動を始めたいという思いがあり、3人が通う成蹊大学のある吉祥寺で演奏会を企画することになった。3人の中に高校時代、高齢者施設に訪問演奏をしたことがあるメンバーがおり、高齢者施設での演奏に着目した。高齢者施設はコロナ禍で施設への出入りを制限し外部との関わりが減り訪問演奏機会が失われ、音楽を聴く機会が減っている事に気がついた。
私たちは、コロナ禍で先が見えず「オンラインでも開催する意味があるのか」という迷いがあった。対面でイベントが出来るようになるまで構想だけ考えるか、現段階で出来る形を考えて実行するか、という選択肢がある中、私たちは後者を選んだ。この決定には時間がかかったが、ゼミの他メンバーなどにも相談し、アドバイスをもらった。いつ出来るようになるか分からない(もしかしたら卒業まで出来ないかもしれない)、自分たちの糧となる経験が欲しい、コロナ禍だからこその価値を生み出せるかもしれない、というような理由からこの結論に至った。
吉祥寺の高齢者施設を調査したところ、「吉祥寺ホーム」が音楽ボランティアを募集していることを知り、私たちが力になれるのではないかと考えた。そこで、吉祥寺ホームの方にメールで連絡し、私たちのリモート演奏会の企画を快く受け入れてくださり、今回の演奏会の実施が決まった。また、今回は吉祥寺ホームさんとはDVDをお渡しするまで、最後までメールでやり取りさせて頂いた。そのため、お互いの顔が見えない状態で信頼関係を築く必要があった。私たちは、企画内容を詳細にお伝えすることや、早めの返信を心がけてやり取りを続けた結果、熱意が伝わり、教育研修委員会に提案して頂けた。また、先方の懸念点(三密など)を1つずつ解消していくことや要望(リモート演奏会の届け方、今回はDVDを渡した)に応えていくことが信頼に繋がったと思う。今回、リモート演奏会を通して築いた関係性を今後も続けていきたい。
コロナ禍で安全に演奏者が練習し演奏できる環境、そして観客が安全に演奏を聴ける環境を提供するにはどうすればいいのか。そこで演奏者が練習から本番まで1度も会うことなくリモート演奏会を開催する、という結論に至った。
また、今回依頼した演奏者のほとんどが大学生であるのに対し演奏の届け先は高齢者施設を利用されている方とそのスタッフだったため、私たちは幅広い年代の方が楽しめる曲を選び、演奏者の演奏を集め動画編集をしDVD作成までを行った。(詳しくは後半で)
3.結果
2020年12月27日から2021年3月19日の期間で本プロジェクトを行い、以下の2つの結果を出すことができた。
①約40分のDVDを制作し、吉祥寺ホームの3施設で流していただいたこと
②25人の演奏者でリモート演奏を行ったこと
このリモート演奏会は未経験なことばかりで困難や学びが数多くあった。しかし、音楽の楽しさや良さを改めて感じることができた経験にもなった。
4.乗り越えた困難
*初めての動画編集
今回のリモート演奏会は、演奏者それぞれに動画撮影をお願いし、メンバーで集めた動画を編集し演奏会を完成させた。動画編集技術が必要であったが、メンバーは全員初心者。自分たちの用途に合ったソフトを調べたり、経験者に尋ねたり、メンバー間での情報共有を行ったりして、完成までたどり着いた。
*動画の構成決め
今回は高齢者施設の方へのリモート演奏会であったため、以下の点に配慮した。
① 利用者の方・スタッフの方全員が楽しんでいただけるように、幅広い年代の方に親しまれている曲を選曲
② 長時間見続けていても飽きないように視覚的にも楽しめるような工夫
③ 演奏会を通じて少しでも繋がりを感じていただけるような工夫
今回は年齢層を考慮して1960年代から1990年代までのヒット曲を年代別にお届けし、「見上げてごらん夜の星を」や松田聖子メドレー、「世界に一つだけの花」などを演奏した。長時間動画を見ても飽きないような工夫として、曲に合った画像を挿入したり、演奏者の姿を映したりすることで、曲の雰囲気や人とのつながりを感じてもらえるようにした。また、利用者の方に口ずさんで参加してもらうために、歌詞が見やすいように編集を工夫したり、プログラムに歌詞を載せたりする工夫も行った。他にも、メンバーが普段演奏している音楽のジャンルがバンド・吹奏楽・弦楽と異なっていたため、それぞれの音楽のジャンルに触れてもらえるようにあえて3つのジャンルを混ぜた演奏会にした。
*演奏者への呼びかけ
コロナウイルスの影響もあり、自宅や練習室など個人で密にならない環境で演奏が可能な方にのみ参加をお願いしたため、環境が整えられないという理由で参加できない方もいた。その結果、楽器によって人数が大きく偏ってしまった。今回はリモートでの実施であり、音量バランスを編集で調整することができた。
5. このプロジェクトを通して学んだこと
*音声・動画の編集技術
今回の動画を作成するにあたり、各自が自宅で撮影した動画を編集する必要があった。今回、編集作業は3人全員で分担し、それぞれ自分のやりやすい方法を模索しながら進めた。iOSでの作業は、音声を合成した後、映像を重ねる方法をとった。
具体的な方法は次のようなものである。
1. 撮影した動画をPC上のファイルに保存
2. MixPadに動画音声を取り込み、音の縦を合わせる・音量調節を行う
3. 作成した音声ファイルをPC上に保存
4. iMovieに作成した音声ファイルと元動画を取り込む
5. タイミングを合わせて合成し、元動画の音量を0にする
6. フェードイン・フェードアウトなどの設定をし、完成したものを保存
※iMovieでは動画を2つずつしか合成できないため、それ以上の場合は4~6を複数回繰り返す。
7.作成・保存した完成動画をiMovieで繋げ、保存
動画編集に関して初心者であった私たちだが、ゼミの先輩・同期やインターネットを頼りながら最終的には動画を完成させる事が出来た。音楽をメインとした動画である場合、音の縦を合わせる作業は大変難しく、上記のように音声と映像を分けて合成する方法が最適だと感じた。
✳︎構想で終わらせない大切さ
実際に活動してみて、やりたい事を形にしてみる大切さを感じた。「こういう事をやりたい」「こんなものがあったらいいのに」と口にするだけでなく、周りの人を巻き込み、最後まで責任を持って形にする、という経験は他人から与えられるものではない。今回、自分でやろう!と決めてやってみなければ分からない、難しさや楽しさ、達成感を感じる事が出来た。また、対面でのイベントが出来る世の中になった時、私たちの経験を生かす事が出来ると考えている。チャンスは一度きりではないので、「やってみて次に生かす」という繰り返しを出来る人になりたいと思った。
* 音楽の楽しさ・同じ空間で演奏する楽しさ
今回のプロジェクトを通して、音楽の楽しさや良さを改めて感じることができた。プロジェクトメンバー全員が演奏機会が減ってしまっている中で、今回リモート演奏会に演奏者としても参加することで音楽の楽しさを改めて実感した。また、協力してくれた演奏者からも参加できて楽しかったという声も頂いた。そして、私たちが音楽を届けることで音楽を楽しんでくれる人がいることを知り、音楽の力の素晴らしさや音楽の良さも実感した。
私たちは、今回のリモート演奏会を体験したからこそ、対面での演奏が楽しいものだと実感した。目を合わせながら、人の音を聴きながらの演奏はやはり楽しい。また、演奏しながら意見を交わし、より良い表現を探すのも対面でじっくり音楽をやる時の醍醐味だ。今回、オンラインでは同時演奏が難しく、メトロノームまたは参考音源に合わせて各自で録音録画を行った。自分の好きな時間に練習出来る、撮り直しが可能であるというメリットもあるが、「楽しさ」という点においては物足りなさを感じてしまう。それぞれ音楽団体に所属し、今まで対面での合奏を当たり前のようにしていた私たちは、その時間の大切さを学んだ。
コロナウイルスの影響で今は演奏者、観客が同じ空間で音楽を楽しむことは難しいが、いつか同じ空間で音楽を楽しめる日が一日でも早く来てほしいと思う。
*スケジュール管理の大切さ
今回プロジェクトとして活動すること、動画編集することなど全てが私たちにとって初めてのことだった。その為、当初のスケジュールよりも完成が遅れてしまった。ゴールが決まった段階で余裕を持ったスケジュールを立てること、そして、メンバー全員が期日をしっかりと意識して、期日に間に合わせることの大切さを学んだ。
6.次なる目標
今回のプロジェクトは全ての過程をオンラインで行ったが、コミュニケーションの円滑さは対面に比べると欠けてしまう部分があった。具体的には、ミーティングの際のメンバー同士の意見の共有や議論が対面の場合と比べると、円滑には進まない場面もあった。また、アイディアをお互いに出し合う時に行き詰ってしまう場面もあった。これらの改善策として、メンバー同士のリアクションを大きくする、ミーティングの内容を事前に決め、各自で意見を持ち寄り共有する状態にすることを対面の場合よりも意識して進めることが大切であると感じた。まだまだオンラインでのコミュニケーションには課題があるように感じるが、これからのプロジェクト活動でより良いオンラインでのコミュニケーションをとれる方法を探っていきたい。
この経験を生かし、また新たなイベントを企画したいと考えている。対面での活動がこれからどの程度可能になるかは分からないが、オンラインと組み合わせる事でより良いものが出来るかもしれない。そして世の中が落ち着いたら、演奏者も観客も同じ空間に集まり、一緒に音楽を楽しみたいと強く思う。また、より多くの人を巻き込んで活動したいと考えている。普段から一緒に演奏している人だけではなく、大学の人や地域の方など、新たなコミュニティーをつくる事にも挑戦したい。今回の演奏会をはじめの一歩として、これからも3人で活動していく予定である。
7.追記
今回、吉祥寺ホームで音楽活動をしているアンサンブルWINDS様にDVDの感想をいただいたので、一部抜粋し掲載させていただきます。
「見上げてごらん夜の星を」
丁度、その日の夜はスーパームーンの見える日でしたので、グッドタイミングでした。映像のバックの満点の星に、一日も早い平穏を祈りました。
「負けないで」
この辛い時期にピッタリの曲です。大変うれしく、若い皆さまから元気をいただきました。音楽は年齢を超えて共有できるものです。できましたら、ピアノソロの後に歌のソロが聴きたかったです。
「世界に一つだけの花」
この曲も演奏した覚えがありますが、リズムに苦労しました。「弦楽四重奏は初めてでしたが、とても感情が込められ、リモート演奏とは思えないほどまとまっていました。
「ふるさと」
ご利用者さまの「お誕生日会」「クリスマス会」などには、一緒に歌います。この曲には大変思いを寄せられ、涙をされる方もいらっしゃいます。